黄浦区安仁街は、飲食店や雑貨店などが立ち並ぶ上海きっての観光スポット。
その片隅に1559年から1577年まで18年もの歳月を費やして作られた、中国風の庭園「豫園」がある。
明の時代に四川省の役人だった潘允瑞が、故郷を懐かしむ両親のために造ったといわれ、「豫」の文字には「平和と癒し」という意味がある。
約2万平米の敷地に広がる江南古典庭園。中国風建造物や名石を配した池、橋などが、水墨画から抜け出したかのような空間を演出している。
庭園内の建物はすべて清の時代の建造物で、なかでも『三穂堂』(さんすいどう) は、豊作を願って穀物の彫刻が施され、釘を使わず建てられた楼閣は重要な見どころとなっている。
『三穂堂』(さんすいどう) の裏にある『仰山堂』は1866年築のお堂。反り返った屋根がなんともユニークである。
『玉華堂』(ぎょっかどう)
は潘允瑞の書斎として使われていた建物。玉華堂の書斎から見える池には、高さ約3メートルの太湖石・『玉玲瓏』が眺められる。
中国の蘇州付近、太湖周辺の丘陵から切り出される太湖石は、穴の多い複雑な形の奇石で、中国各地の庭園などに配置され、水墨画の題材にもなっている。
北宋最高の芸術家の一人である8代皇帝徽宗も太湖石を蒐集したという。わけても『玉玲瓏』は、中国三大太湖石の一つに数えられるほどの銘石。『玉玲瓏』は72個の穴がある奇石で、カメラを向ける観光客が後を絶たない。
庭園内の龍の装飾は、5箇所に存在し、本来4本あるとされる指が3本しかないのが特徴。これはかつて龍の装飾が皇帝のためのものであったので「これは龍ではない」という意味を込めて指の数を減らしたのだといわれている。
『龍壁』は、その名のとおり、壁を龍が這っているかのように彫刻された壁で、観光の目玉となっている。
「為東南名園冠(江南の名園の中でも一番とする)」という「豫園」を讃える古人の言葉に、訪れた旅人は深く賛同するであろう。
稲葉 秀一
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