建築散策記シンガポール特集第2弾は、開発が進むベイエリアの最先端の建築群をご紹介しよう。人口約520万人、淡路島ほどの面積の都市国家シンガポールでは、2010年に政府主導でふたつのカジノ施設が開業され、海外からの観光客が急増した。今最も開発が進むベイエリアは新しいシンガポールを象徴する建築が目白押しである。
ベイエリアを一望すると、まず目に入るのが巨大な船をおもわせる総合リゾートホテル、マリーナベイ・サンズ。3つの高層ビルが屋上の空中庭園サンズ・スカイパークで連結した形状。シンガポールを一望できる展望台、地上200メートルの世界一高い場所にある巨大プールは観光の新名所となっている。設計はイスラエルの建築家、モシェ・
サフディによる。シンガポールの勢いを体感できる今最も有名な建築物である。
マリーナベイ・サンズのお隣に鎮座する、複雑な曲面で構成された建物はアートサイエンスミュージアム。屋根や外壁には、鉄骨に断熱材のロックウール、セメントボード、防水シート、その上にアルミ屋根やグラスファイバーの外壁が重ねられているという。蓮の花をイメージしてつくられ、10枚の花びらが周囲の池より浮かび上がった形となっている。地上最長62m、花びらの最大直径80m。なんともユニークな近未来的建築である。意匠設計モッシェ・サフディー・アーキテクツ(Moshe
Safdie Architects)、構造設計アラップ(ARUP)。日本の五洋建設が元請け建設会社として施工している。鉄骨の製作・仮設はシンガポールのヨンナム(Yongnam)社が担当。
2012年6月にオープンしたガーデンズ・バイ・ザ・ベイは高さ50mの人工の木“スーパーツリー”がニョキニョキと佇立し、まるでSFの世界を目撃しているかのようである。総面積約110ヘクタール。3つの植物園と世界最大のふたつの冷室ドームから構成された巨大植物園。常春の花園“フラワー・ドーム”、多肉植物の庭、バオバブとボトルツリーの森、南アフリカの庭園、世界中の花が咲く“フラワー・フィールド”、寒冷な高山が再現されている“クラウド・フォレスト”他、見どころ満載である。設計はグラント・アソシエイツ+ウィルキンソン・エア。
ベイエリアにはこの他にも建物自体が湾曲した巨大コンドミニアムのリフレクションズ・アット・ケッペルベイ。ドリアンという愛称を持つ総合芸術文化施設、エスプラネード・シアターズ・オン・ザ・ベイ。黒川紀章の設計、三菱商事・竹中工務店が施工した巨大観覧車等、挙げればきりがないほど魅力的な建築物で溢れている。日本ではちょっと考えられないスケールの建築物を日本の技術が少なからず支えている点も非常に興味深い。
稲葉 秀一
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