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ホノルルのダウンタウンにヴィクトリア風建築様式の宮殿があるという。アメリカ合衆国に宮殿?と、はじめ我が耳を疑った。どうやらかつて栄華を極めたハワイ国王族の公邸なのだと聞きくと、かの有名な「アロハオエ」の音色が自然と口をついて出てきた。
それもそのはず、イオラニ宮殿は1882年にハワイ国王7代目の陽気な国王(メリー・モナーク)との愛称で親しまれたデイビッド・カラカウア王によって建てられたの公邸で、カラカウア王亡き後、王朝8代目の女王として王位を継承した妹のリリウオカラニ女王こそが『アロハオエ』の作詞をした人なのである。
建物は地下と地上2階建てからなる。クリスタル硝子装飾の正面玄関を入るとハワイ原産のコア材で造られた階段を中心とした大広間である。ハワイ王朝歴代のカラカウア王、リリウオカラニ女王、その夫ジョン・ドミノスの肖像画が掛けられている。大広間の左手には青の間。カーテン、チェア、絨毯などが格調高い青で統一されている。引き戸で仕切られた正餐の間のダイニングテーブルには銀食器、陶磁器などが当時そのままにセッティングされ、いままさに到着するばかりの貴賓の方々を待っているかのようである。地下の厨房で調理された豪華な料理の数々はエレベーターでこの部屋に運ばれた。
そして玉座が鎮座するゴールドとワインレッドで統一された王座の間。天井からは6基の豪華なシャンデリアが吊るされており、公式行事や舞踏会などが催された。
2階は、客間、居間、音楽室、シャワー室、寝室、執務室などで、ハワイで最初の照明設備、水洗トイレ、電話などが完備されている。カラカウア王は新しいもの好きの人で、パリ万博で電灯を見てハワイの宮殿に採用したのだとか。地下は現在イオニアパレスギャラリーとなっており、カメハメハ大王のケープ、王冠、笏杖、剣をはじめ、ロイヤルジュエリーや祭儀用品などが展示されている。
カラカウア王の死後、前述の妹のリリウオカラニ女王がハワイ王朝8代目の女王として王位を継承したが、親王派がおこしたクーデターが失敗に終わった。その首謀者とみなされた女王はイオラニ宮殿に幽閉され王位を剥奪された。ハワイ王国は滅亡したのである。
『アロハオエ』の優しさのなかに哀しみや憂いを含んだメロディは、消え行くハワイ王朝への別離の想いが込められている。
稲葉 秀一
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