|
平成17年10月8日、人口5.4万人の島根県益田市に芸術、文化の拠点となる劇場と美術館の複合施設グラントワが完成した。グラントワの由来を調べてみると、フランス語で「グラン=大きい」、「トワ=屋根」からきており、島根県が誇る石州瓦をもちいた切妻(きりづま)屋根が特徴の芸術文化センターを表現しているのだという。
島根県とフランス語の取り合わせがなんだかすこし気恥ずかしいような気もするが、グランという言葉から力強さや雄大さが感じられ、島根県の人々の芸術文化センターに賭ける意気込みが素直に伝わってきて、おもわず背筋が伸びた。わたしが訪問した日は、きっぱりとした秋晴れのお天気で、紺碧の空と赤茶の石州瓦のコントラストが、なるほどフランスを想わさないではないと考えた。
建築面積14,068?、延床面積19,252?、RC造、地下1階地上2階。内藤廣建築設計事務所設計の芸術文化センターは、28万枚もの石州瓦の使用がおおきな特徴である。屋根だけでなく壁にも使用された石州瓦がシックな色合いの外観を創りだしている。
石州瓦は通常の瓦より500℃ほど高い温度で焼かれるため、高い耐久性と耐候性をもつのだという。瓦は屋根だけではなく、壁にも金属製のファスナーで取りつけられている。
エントランスから入ると45m四方の中庭が目の前に広がっている。
中庭を中心とした回廊式の明快な構造で、中庭を取り巻き4つの展示室と大、小ホールがある。 ホールそのものは、劇場などに見られる圧迫感やスケール感はあまり感じられないが、中庭には水を張ることができ、その水盤は中心の深さ12cm、水盤の大きさは25m×25mという広々としたものである。水盤の水を抜くと、薪能や、神楽などの舞台にもなる興味深いシステムで、中庭あっての建築物であると実感した。
なぜ島根県益田市にこのような芸術文化施設が建てられたのだろうか?そんな思いにとらえられながら、1500席ある大ホールの無柱空間を見渡した。
東方の山陰地方には、目立った芸術性の高い施設が今までなかったという。芸術文化センターは年間20万人の入場を見込んだところ、1ヶ月で10万人を達成したというのだから驚いた。
この数字から山陰地方の人々の芸術や文化への飢えが感じられないだろうか。本来人間が生きていくうえで必要不可欠なもののなかに、芸術が確かに含まれているのだ。
芸術関連施設の比較的多い日本の地図に、ぽっかりと空いた空間。それが島根県益田市だったのではなかろうか。
「島根県芸術文化センター」は、ほどよく益田市の街並みに溶けこんで見える。
グラントワ「大きい屋根」の下、どんな芸術活動が繰り広げられてゆくだろう。地元の人たちのあいだにどんな文化が育ってゆくのだろう。
石州瓦はこれからの山陰の芸術・文化の成長をどっしりと見守ってくれるはずである。
稲葉 秀一
|
|
|