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建築散策記の記念すべき40回目はシンガポールより、そのシンボルともいえるラッフルズホテルをご紹介しよう。
シンガポールの創設者であるトーマス・ラッフルズ卿の名前を冠するラッフルズホテルは、白亜の外観、高い天井やベランダが特徴。クメール建築にアールデコ、フレンチコロニアルなど、さまざまな建築様式が調和したコロニアルスタイルのホテルである。シンガポールの歴史とともにたびたび増改築を重ね、今日まで歩んできた。
創設者のサーキーズ兄弟は、ペルシャ出身のアルメニア人。1887年、当時英国領の海峡植民地の中心、自由貿易港として急速に発展していたシンガポールにラッフルズホテルを開業した。スワン・アンド・マクラーレンのR.A.J.ビッドウェルによって設計されたこのホテルは、わずか10室のこじんまりとしたバンガロー・スタイルであったが、1899年には3階建ての本館を完成させ「スエズ運河以東で最も豪奢」と評されるホテルの基礎を築き上げた。第2次世界大戦中は日本軍によって接収、「昭南旅館」と改名され軍幹部の営舎となっていた。戦後は再びコロニアルスタイルの名門ホテルとして復活。
1987年には、建物がシンガポール政府により歴史的建造物にも指定される。 1989年には1915年ごろのスタイルを基準とした大改修が2年半にわたって行われ、1991年、ついに全104室スイートルームという豪奢な名門ホテルとして復活した。建造物の過去の姿を忠実に再現する手法はヨーロッパの伝統といえる。
また、チャーリー・チャップリン、サマセット・モームをはじめ、国家元首、政治家、俳優などに愛されてきたホテルの歴史を重んじて、チャプリン・ルーム、モーム・ルームなど、当時の調度品そのままの部屋も用意されている。
そして忘れてならないのは名高いシンガポール・スリングとよばれるカクテル。ラッフルズのロング・バーのバーテンダーのニァン・トン・ブーンがシンガポールの夕焼けをイメージして創ったのだとか。白亜のコロニアルスタイルの建物にオレンジ色のカクテルの鮮烈な対比が、ラッフルズホテルに訪れる人々を魅了し続けている。
稲葉 秀一
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