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快晴の夏のある日、島根県立古代出雲歴史博物館を訪れた。
平成15年12月に着工、平成18年12月に完成、平成19年3月10日開館。
『古事紀』、『日本書紀』、『出雲国風土記』など、数々の神話に登場する出雲地方のシンボルといえる出雲大社のお隣に、深緑の山並みを背景に建つ。
本館の敷地面積は5万7000平方メートル、延べ床面積1万2000平方メートル。設計はコンペにより槇総合計画事務所。建物は自己主張せずに、背景の山の自然に溶け込んでいる。
硝子の箱のエントランスは、博物館にありがちな重々しさは全く無く、気軽に訪れやすい雰囲気を持つ。その透明性による箱体で庭園を遮断することなく一体性を持たせている。
ディテールがきわめて美しい。構造体を強調せず、空中廊下や吹き抜けなどと共に明るく軽いイメージで、庭園の緑に溶け込む。夜には、一部の乳白色の硝子の外壁が行灯のように光るという。
エントランスから中央ロビーに入るとイメージは一転。出雲大社の境内で発掘された、柱「宇豆柱」の展示を中心に、テーマ別展示室、総合展示室、特別展示室が配される。
常設展では、『出雲國風土記の世界』と題して当時の自然や暮らしを再現。『青銅器と金色の大刀』コーナーでは出雲で出土したいにしえのお宝を拝見できる。また、神話にせまった展示コーナーや島根の歴史や文化に触れる体験コーナーもあるが、なんといっても目玉は、中央ロビーのガラスケースに鎮座している鎌倉時代の柱であろう。
この柱は平成12年、出雲大社境内遺跡から出雲大社境内遺跡からスギの大木3本を1組にした、直径が約3mにもなる巨大な柱で、古くから宇豆柱(うづばしら)と呼ばれてきたもの。棟をささえる柱、棟持柱(むなもちばしら)であったのだという。スケールのおおきい柱を拝見し、かつての壮麗な出雲大社の姿に想像をめぐらせつつ、奈良・平安時代の出雲大社を再現した模型を拝見した。
ところで山側の敷地奥に、カツラ並木のアプローチがエントランスまで延々とつづく。古代出雲大社の引き橋と呼ばれる109メートルの階段と同じ長さである。
外の駐車場からきた車での来訪者は、屋根のある外部通路を経て、つい受付の正面入口とは別の入口に向かってしまう。カツラ並木を歩いてもらいたいがための策としての外部通路であろうが、正面入口と書いた大きなサインに気づかないで通り過ぎてしまう。むしろ外部通路の屋根はいらなかったのではないだろうかと思った。
出雲大社を囲む木々が神々の国の神秘さをもかもし出す風景を眺めながら考えた。古代出雲大社は、当時の人々の神々へのあこがれを一身に集めたアミューズメント施設だったのではあるまいか。人々の厚い信仰があってこそ、当代きっての腕ききの宮造りが集結し、技の結晶といえる建築物が生まれた。
北山の背景に広がる、抜けるような夏空、蝉の声。いにしえの人々のざわめきやささやきが聞こえてきそうな、古代出雲歴史博物館への旅であった。
稲葉 秀一
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