シドニー中心街にあるハイド・パーク・バラックスは、1818年から1819年に建てられた無骨な、それでいてなんだか奇妙な存在感を持つ煉瓦造りの建物である。
この建物は建設当初オーストラリアの男性囚人の宿舎として建てられた。
設計は本国イギリスで文書偽造のかどでシドニーに流刑されてきた建築家、フランシス・グリーンウェイ。
この人物『1814年に流刑地シドニーに流された後、執行猶予により建築家としての仕事を再開。1819年には囚人宿舎の設計により特赦を受け、自由の身となる』のだから、手に職を持った人間は逆境にも強いのである。
ハイド・パーク・バラックスの歴史を紐解いてみると、1848年に移民収容所、1862年から女性移民の保護施設、その後1887年から1979年まで法廷や政府の施設として使用され、1984年には博物館として蘇った。そして2010年にはオーストラリアの囚人遺跡跡のひとつとしてユネスコの世界遺産に登録されたのだから、流刑の建築家、フランシス・グリーンウェイも本望というものであろう。
現在はニューサウスウェールズ州管轄の博物館として公開されており、当時のシドニーの囚人生活や、オーストラリアの囚人管理システム、ハイド・パーク・バラックスで発掘された物品の展示なども見学することができる。
わけても人気なのは、展示物のハンモックに横たわると囚人や入植者の女性たちの声が聞こえてくる『眠りと悪夢の部屋』。当時の人々の心の声がなまなましく蘇る。
また、
バラックスの歴史を模型でたどる『物語の部屋』などもあり、シドニーの歴史の側面を知るのにたいへん興味深いツアーなのである。
束の間の囚人気分を味わった後は、近くの緑溢れる公園で思いっきりゆったりできるのも、シドニーならではと言えるのかもしれない。
稲葉 秀一
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