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通称ガンガン寺。函館山の山麓にある。
この界隈はさながら宗教の見本市。ローマ・カトリック教会、イギリス系の聖教会、アメリカ系メソジスト教会、東本願寺、中国領事館の道教の廟堂、そして港の守神船魂神社。そんな宗教過密地域にあってひときわ高らかに鐘の音色を鳴り響かせるのがガンガン寺・函館ハリストス教会である。
1859年外国貿易港として函館港が開港した年、ロシア領事館の礼拝堂として建設された。1907年には函館大火で消失。現在の6つの玉葱型キューポラをもつ白亜のビザンチ様式になったのは1916年のことだという。
設計者は河村伊蔵。煉瓦(表面漆喰塗り)、屋根は銅板葺き、平家建て。擬洋風の傑作である。西洋建築を精一杯模した建築物。しかしどんなに上手くまねても日本の手法や美意識が随所に表れる。そこに強烈な個性が生まれた。昭和58年には国の重要文化財に指定された。
1909年にハリストス教会のすぐ近くで生まれた作家・翻訳者・詩人の長谷川四郎はガンガン寺の鐘のことをこう書いている。『ロシヤ語で鐘のことをコ−ロコルと言うが、このコ−ロコルはコロコロではなくガ−ン、ガ−ンと鳴りひびいた』(長谷川四郎全集第一巻
/ 晶文社)
大小複数のそれぞれ音色の違った鐘がガンガン寺の鐘の音色は、平成8年に『日本の音風景100選』に認定された。『函館ハリストス教会』より『ガンガン寺』という通称で愛されてきたわけはこの希有な音色のためであろう。
稲葉 秀一
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