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聖徳太子、山部赤人、小林一茶、十返舎一九、緒方洪庵、正岡子規、夏目漱石、高浜虚子 、吉川英治、菊池寛、与謝野晶子、伊藤博文。
伊予の湯・道後温泉に入浴した数々の偉人たちの名前の一部だ。 名前をあげたうち、なんと3名までもがお札の肖像になっている。なんとありがたい湯だろう。
お札のご利益にあやかりに、いや、共同浴場としては始めて国の重要文化財に指定された木造三階建ての建築物を見るべく、道後温泉に来た。
1894年(明治27)築木造3階建ての風情ある建築物。
「道後温泉」の額を掲げた瓦葺の正面玄関は、日本中に点在する銭湯デザインの原点を見る思いがする。
本館を正面から見て左手に、3層の神の湯、右手に2層の南棟が見える。 白鷺聳え立つ望楼が、神の湯の塔屋にあたる振鷺閣で、朝6時、正午、午後6時には刻太鼓(ときだいこ)がドンとばかりに打ち鳴らされる。
この振鷺閣は宮崎駿監督「千と千尋の神隠し」のモデルになった。 南棟の2階は、霊の湯の休憩室で、窓際には「すだれ」がずらりとかかり、いかにも涼しげだ。青い暖簾をくぐると、湯場はすべて1階にあり、藍の陶版の壁タイルが美しい「神(かみ)の湯」、浴槽に庵治石や大島石、壁には大理石が使われた「霊(たま)の湯」に別れている。2階は神の湯と霊の湯それぞれの休憩室となっており、浴衣でくつろげる空間。3階は夏目漱石「坊ちゃん」で有名な純和風の個室が8部屋あり、お茶と坊っちゃん団子でゆったりくつろげる。
館内にはその他、漱石ゆかりの「坊っちゃんの間」、皇族専用浴室の「又新殿(ゆうしんでん)」などがある。
道後温泉の建築物には、温泉という理由だけでなく、人を癒すエネルギーが満ちあふれている。湯が人の肉体ばかりか心まで洗うように、建築物は常に人とともにあり、人の心に影響を及ぼす。疲れた現代人の心を洗濯してくれるのだろう、道後温泉本館は地元の人はもとより観光客にも大人気である。
わたしも早速、赤手ぬぐいを片手に、伊予の湯に浸ることにした。そしていまいちど、近代和風建築のすばらしさを堪能することにしよう。
稲葉 秀一
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