香川県高松市の栗林公園は、公園とはいっても回廊式の日本庭園である。庭園には江戸初期に建てられた「掬月亭 きくげつてい」という茶室があり、庭園の要となっている。
高松藩の歴代藩主が茶を嗜んだという数寄屋風書院造りの建築物・掬月亭 は『南湖に突き出すように建てられた姿から、水に映った月を手で掬うという詩にちなんで名付けられた』という。紫雲山を背景に新緑に映える黄色い土壁と円窓、屋根のサワラのこけら葺きが実に印象的な茶室である。
入って最初の廊下からは白砂の庭が見える。松の緑が見える。茶道という音楽の序曲にふさわしい。茶道口から入ると6畳と長1畳の茶室である。躙口が広いのは大名茶室だからとか。床は蹴り込み床、床柱は北山杉丸太、落とし掛けは北山杉の半丸太、平天井は吉野杉、床框・床板は漆黒の真塗りである。これは茶室の主の格式を表しているとか。
茶室のまるい下地窓と
腰高障子窓を額縁とした新緑と白砂が奏でるシンフォニー。
四季折々奏でる音楽もちがってくるだろう。床の間の漆黒が色彩の音楽をさらに深いものにしている。
掬月亭の雨戸が建物の角で90度回転する仕掛けになっているというのは、「戸袋に消える128枚の雨戸」が「意中の建築 /
中村好文著」で紹介されていた。日本建築の魔法を見るかのような精緻さ、合理性に感動を覚える。
南湖に面した手すりに立つと、まるで自分が建物ごと水に浮いているような気がしてくる。時の藩主たちは、水面に映る月を掬いながらなにを思ったろうか。
稲葉 秀一
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