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来た来た、やって来ました!
海を越え、はるばるやって来たのは摂氏40度の燃えさかる北京…‥。
「建築散策記」
初の海外取材にして世界遺産訪問記である。
北京の地図を広げてみよう。
かつて明、清の皇帝が住まった紫禁城。現在の故宮を中心に東に日壇公園、西に月壇公園。南に天壇公園、北に地壇公園が整然と位置している。太陽と月と天と地と。
わけても天のある公園・天壇公園は、地を治める天の子としての皇帝が祭祀を行った重要な場所である。春節には五穀豊穣を祈り、その年の作物の出来を報告する。ときには天に雨乞いをする。天と交信を持つ聖なる場所なのである。
その天壇公園でもっとも有名な建造物はというと、瑠璃瓦が北京の空にひときわ映える祈年殿であろう。
中国史上最高の軍人帝王と称された明の永楽帝が、遷都の際の1420年に創立。後の1889年落雷により焼失。現在の祈年殿は1906年に再建され1998年ユネスコの世界遺産に登録された。
基壇の彫刻は彫刻のデザインが1段目が雲、2段目が鳳凰、3段目が龍である。さながら天空への階段。祈年殿へいたる階段の中央には3枚の白亜の石彫が飾られており、階段を登るにつれ、青い宝石のような建造物が視界いっぱいにひろがる。なかなかの舞台装置である。
祈年殿は円と奇数が基調となっており、地上、雲上、天上の3層を基壇とした直径32メートル、高さ38メートルの円形木造建築である。それぞれの層は9段の階段で結ばれる。内部中央の4本の龍井柱は四季を表し、周囲に並ぶ12本の金柱は12ヶ月、その外の12本は12時間を表しているという。ひとつの釘も使わずにこれら28本の柱がまさに天を支えている具合。
我が国では古くは奈良の高松塚古墳にみられる四方四神(東に青龍、南に朱雀、西に白虎、北に玄武)の聖獣である龍や鳳凰が、祈年殿では彫刻や彩色で緻密に表現されていて、観るものの視線を上へ上へと向けさせ天空へといざなう仕掛けなのだ。
あらためて外観から眺めると、屋根のてっぺんに鎮座する金メッキをほどこされた宝頂が灼熱の北京の空に融けてゆくかのように輝いている。
このところ世界中で異常気象が続いているが、例年夏の平均気温が30度くらいの北京で40度とは……。奢れる人間への天の怒りであろうか。天の子、皇帝ならば即座に天へ祈祷する一大事であろうが、今日の一般市民たちはどこ吹く風とばかりに、ゆるゆると木陰で太極拳などに興じているのであった。
稲葉 秀一
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