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2010年の盛夏に北京の故宮博物院を訪れた際は
、博物院の建物の壮大さに圧倒されるばかりであった。
その博物院内に鎮座していたはずの重要なお宝の多くは、歴史に翻弄された末、台北の故宮博物院へと辿り着いたと聞いていた。以来、台北の故宮博物館へいつか行ってみたいという想いは募るばかりであったが、あっという間に1年が経ってしまった。
そしてついに今年の秋のはじめに台北を訪れる機会がやってきて、あこがれの台北に降り立った。
北京の故宮博物院にあった歴史的遺産は1948年から1950年にかけて台湾に搬送された後、山中に隠されていたという。1965年になると現在の地に台北・故宮博物院が建設された。。歴史的遺産の数が合計60万8985件冊にも及ぶことからN.Yのメトロポリタン、パリのルーヴル、サンペテルブルグのエミルタージュ美術館と並んで世界四大博物館といわれている。
2001年より、大規模な耐震工事が行われ、2007年2月より全館リニューアル・オープンした。建物は北京の故宮博物院と比べると歴史的価値は少ないが、21世紀にふさわしいモダンな博物館へと生まれ変わった。
豪壮な建物正面は伝統的な中国宮殿造りで、4層の本館を中心に、瓦のブルー・グリーンと、ぐるりの塀の高貴なイエローのコントラストが素晴らしく、吹き抜けのエントランスには自然光が取り入れられている。内部の展示のライティングにも現代的な工夫がなされ、およそ70万点近くの収蔵品のうち、常時展示している品は6000〜8000点とか。常設展を丹念に観るだけでも1週間はかかる勢いである。
ルーブル美術館にも匹敵する美術館がアジアにあるとは、なんとも頼もしい限りである。
もうひとつ台北のシンボルと称される中正紀念堂を訪れた。
約25万平方メートルの広大な敷地の公園のなかにあり、正面の高さ30メートルの白亜の門の入口には「自由廣場」の文字が掲げられている。その正門から歩くこと約10分、公園中央に位置する紀念堂は、中国の伝統建築で、建物の高さ70メートル、八角形の屋根はサファイアブルーの瑠璃瓦を用い、壁は白亜の大理石で築かれた印象的な建物である。紀念堂の前の花壇にはベニバナが植えられ、これらの色のコントラストによって、中華民国国旗の「青天白日満地紅」の精神を現しているのだとか。
台湾が世界に誇る文化の殿堂「国家戯劇院」と「国家音楽廰」も同じ公園敷地内にある。
紀念堂の2階へとつづく階段が蒋介石の年齢にちなんで89あるとは聞いていたが、実際には数え年の90あって、観光客に行脚のくるしみと達成感という歓びを与えている。
高さ6.3メートルの蒋介石のブロンズ像は、中国の方角を向いて安置されている。
蒋介石は中華民国初代総統となるも、後に中国共産党に敗れ1949年より台湾に移り大陸支配を回復することのないまま1975年4月5日世を去った。未だに大陸を見つめ続け、何を想っているのだろうか。
稲葉 秀一 |
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