水産業の原風景

小田原市

  

水産業の歴史的景観

江戸時代の大ベストセラー「東海道中膝栗毛」に登場する小田原宿。かつての魚市場に隣接した地に佇む旧漁網店(ぎょもうてん)は、現在小田原宿なりわい交流館として多くの人で賑わっている。
昭和7年(1932年)の建造。二階建、切妻造桟瓦葺、外壁下見板張、正面ガラス戸の下屋を設け、二階正面は出格子とし、二段の出桁造とし、一階は土間と一五畳の店、二階は漁具の作業場とした。小田原における水産業の歴史的景観を今の時代に伝える重要な建築である。

建物正面

建物正面

建物近景

建物近景    

出桁造りの美

出桁造り(だしけたづくり)とは、江戸時代より続く伝統的な建築方法で、梁または腕木を側柱筋より外に突出しその先端に桁を何本も突き出した構造。
小田原商家の造り町家(店舗兼住宅)は、軒を深く前面に張り出した「出桁造」による立派な軒を持つことが、その商店の格を示していたという。漁網店という今の時代には消えてしまった商店の、当時の反映ぶりが偲ばれる。

出桁造り

出桁造り        

国の登録有形文化財

小田原宿なりわい交流館のある現在の本町3丁目あたりは、その昔「船方村」と呼ばれ、宿屋が立ち並ぶ宿場の中心地にあり、宿泊客に供する海産物の需要もあって、漁師や魚商の拠点となり賑わっていた。
時代は移り大正12年(1923年)、相模湾北西部を震源地とするマグニチュード 7.9 の関東大震災が発生。おびただしい数の家屋の倒壊後、あちこちから火災が起こり小田原宿は壊滅的な被害を受けた。小田原宿には関東大震災以前の建物はほとんど残っていないといわれている。
小田原宿なりわい館の建物は、震災復興後の昭和初期の建造物として、江戸商家の風情を残しつつ、2階天井には洋小屋の「方杖」と呼ばれる斜め材を取り入れるなどの工夫がみられる。建設当時の雰囲気を今に伝える貴重な建造物として、2022年には国の有形文化財として登録された。

1階天井

1階天井

2階天井

2階天井

出格子窓の風景

二階に上がると出格子窓からの淡い光が差し込んでいる。かつては魚網を一心に編んだであろうこの作業場に、今では老若男女の市民や観光客たちが集い、さまざまな交流や学習の時が編み出されている。
出格子窓越しの風景に一瞬、広い海原を見たような…。そんな気にさせてくれる稀有な建造物である。

出窓格子

出窓格子