国立銀行の誕生
1873年(明治6年)6月に渋沢栄一が日本で最初の国立銀行を設立した。同年11月、新潟の地に第四銀行が誕生した。明治維新当初の新潟は、長崎、横浜、神戸などの湾岸都市と並び、日本海における交易の場として重要な拠点となっていたため、維新後、早期に国立銀行の設立認可が下りたといわれる。発起人は市島徳次郎という豪農で、農民出身の渋沢栄一のように志を持った農民の力が、時代に大きく作用し、明治経済の基盤が整えられていった。
新古典主義様式
建物の正面に立つと、荘厳な雰囲気に圧倒される。第四銀行の住吉町支店は、大正15年に開設された。新古典主義様式の銀行建築で、大正13年に着工、昭和2年に竣工。設計は新潟市出身で旧制松本高等学校講堂や新潟市公会堂などの設計でも知られる長谷川龍雄。鉄筋コンクリート2階建(一部3階建)造りで、外壁に花崗岩を張って石造風に仕上げている。正面入口には古代ギリシア建築風のイオニア式列柱が4本並び,列柱の柱頭など、随所に青銅の装飾を取り付けた重厚な造り。柱間の壁の上部はアーチ型窓となっている。
新古典主義の建築は、18世紀後半にフランスで始まった様式で、装飾的なバロック、ロココ様式に反発し"古典を見直す"機運が高まったことから建築界でブームとなった。新古典主義様式は、ものごとを分析的、実証的、合理的にとらえる精神の表れとすれば、国の財を管理する建造物にふさわしい様式といえよう。
大理石のカウンターの美
開放感のある吹き抜けのある営業室は、美しい大理石のカウンターがひときわ印象的。カウンターの素材は高知産の暁石(花崗岩)が使用されており、カウンター腰壁には岐阜県大垣市赤坂産の大理石を使用。全国から石材が集められ、贅を尽くした造りとなっている。モザイクタイルの床、天井の漆喰、板壁のラワン材、天窓のステンドグラスなども当時の技術の粋を結集した歴史的遺産である。
金融建築の遺構
1927年(昭和2年)の竣工より平成初期まで、長きに渡り銀行店舗として使用されていたが、道路拡幅のため一時は取り壊しの危機にあった住吉町支店の建物は、新潟市が歴史博物館の施設の一部として保存再利用することとなり、国指定重要文化財である旧新潟税関庁舎に隣接する現在地へ移築・復元が行われた。現在は1階の旧営業室をレストラン、2階の旧会議室や和室を貸室として市民に使用され、親しまれている。旧第四銀行住吉町支店の建造物は、昭和初期に建てられた金融建築の遺構として貴重で「造形の規範となっているもの」との理由から、平成17年(2005)に国登録有形文化財に指定された。