旧浅野セメント函館営業所
1918年、日本は第1次世界大戦の勝利に沸き立ち、未曾有の好景気を迎えていた。東京より北の地方としては最大の都市であった函館に建設された旧浅野セメント函館営業所。目の前は広い海。対岸には上磯の石灰採掘場とセメント工場。
よほど印象的な建物だったのだろう。地元の人々は旧浅野セメント営業所にちなみ、この浜をいつしか「セメント浜」と呼んでいたという。
石造りの重量感
施工は、旧函館区公会堂、函館海産商同業組合事務所、旧函館市立図書館書庫などを手がけていた「道内屈指の請負人」村木甚三郎とその息子、村木喜三郎。
木造モルタル2階建の銅板葺。正面両脇に突出して塔状に扱い,コンクリートブロックで隅柱を表す。正面入口にファンライトを飾り,アーケード上にバルコニーを設え、窓庇と窓台は直線的な意匠となっている。
木造ながら堅牢な石造り風の重量感を感じる建物だが、細部の装飾からはお金と技術を注ぎ込んだ大正の栄華が見て取れる。
現代的な都市函館の景観へ
幾度かの所有者の移り変わりを経て、時代の波に晒され荒れていた建物は、2002年(平成16年)に改修された。その際、竣工当時とは大きく姿を変えていた塔屋部分や入口の三連アーチなどが、図書館で見つかった1枚の写真を元に復元された。
2002年函館市都市景観賞受賞、2003(平成17)年の国の登録有形文化財指定。現在は地元の人々や観光客の集う心地よいカフェとなって甦り、遠い波音にも似た話し声を響かせている。