進化する富岡市庁舎
2014年、世界遺産委員会は「富岡製糸場と絹産業遺産群」の世界文化遺産への登録を発表。日本の近代の「産業遺産」が登録された初の歴史的快挙であった。
それから4年の歳月が経過。朽化や耐震性などの問題から建設が進められていた富岡市役所の新庁舎は、2018年3月“市民と共に進化する安全安心な100年庁舎”をコンセプトに富岡のシンボルとして生まれ変わった。
平成から新しい時代へと移り変わる前夜ともいえる2018年夏、富岡市の新市庁舎を散策した。
富岡産材ルーバー
地球環境に配慮した工夫が随所に散りばめられた新市庁舎の設計は建築家・隈研吾さんの事務所。地上3階建て、床面積は延べ約8,500㎡。一つの建物だが、行政棟と議会棟の屋根が分かれているため、一見2棟のように見える。
外観でまず目を引くのが“羽板”と呼ばれる縦に細長い板を平行に組んだルーバー。大きなひさしと相まって、日差しによる熱負荷を大幅に削減している。
またルーバーの木は富岡産材が使用されている。
きびそ壁紙
蚕が最初に吐き出す太くて硬い糸「きびそ」。かつて糸くずとして大量に処理されてきた「きびそ」を壁紙に使うことは、地域の産業を活性化させる趣旨にも繋がり、ルーバーとともに地域発の建材商品となっている。
自然を活かす
富岡の自然を活かし、様々な工夫がされているのも新庁舎の特徴である。
「屋根に落ちる雨水を、地下の雨水貯留槽にため、各階のトイレの洗淨水として利用」「越屋根と吹き抜けで高低差を利用した自然換気を実現」「昼光利用により照明電力20%削減」「太陽光パネルによる発電」など、『進化する100年庁舎』にふさわしい設計内容となっている。
防災•災害時の対策
近年の日本の災害は予測が困難な状況となっている。新庁舎では防災•災害対策の拠点となる安心で安全な庁舎としての役割を担っている。
「制震ダンパーを採用し最高水準の安全性を確保」「非常用発電設備•受水槽」などを活用し災害時には1000人を3日間収容することができる。
また、広場は一時避難場所として活用される。
様々な工夫が盛り込まれた富岡市新市庁舎は、「世界遺産のにふさわしい日本一のまちづくり」を体現する建造物なのである。
参考文献「富岡市役所パンフレット」
稲葉秀一/INABA建築設計事務所